今までに見た紅葉の中で一番きれいだったのはどこかと問われれば、迷わず「赤湯」と答えるだろう。
苗場山の山懐に「赤湯」という温泉があり、そこに「山口館」という一軒宿がある。 「山口館」は宿というよりも山小屋と言った方が適切なひなびた宿で、苗場スキー場の近くから山道を4時間ほど歩かなければ行かれない山中に佇んでいる。そこに25年前の11月初旬にかみさんと訪ねたことがある。 私たちが訪ねた時は、「赤湯」から苗場山に通じる昌次新道を開削した山口昌次さんがまだ健在で、奥さんと二人で宿を切り盛りしていた。 夜はランプの灯る下で薪ストーブを囲み、すでに亡くなられていた谷川岳の名物男、高波吾策さんの思い出話などを聞かせて頂いたのが思い出される。 往復の道中の見事な紅葉と相まって、忘れ難い山旅の一つになっている。 秋の展覧会が一段落して、次の展覧会に向けて準備を始めなければいけないのだが、ここはひとつ「仕切り直し」ということで、山行決行。時あたかも紅葉の季節、即座に苗場行を決めた次第。ただし赤湯を周るには日帰りはかなりきついので、今回は最短の三俣からの往復とした。 朝の6時少し前に家を出て、大宮から新幹線で越後湯沢へ。そこからタクシーで一気に和田小屋まで上がる。「みつまた・かぐらスキー場」や林道が出来る以前は三俣の集落から和田小屋までがほぼ一日の行程であったそうだ。 三俣から清津川を渡るとそこからはすべて国有林とのことで、ほとんど手つかずの天然林に覆われている。残念なことにこのあたりは橅(ブナ)や水楢(ミズナラ)、その他の小灌木ばかりで赤く色づく木々がほとんど見られない。全山真っ赤に色づく姿を期待していたので、これは大誤算。ともあれ黄や褐色の入り混じった黄葉も都会人を魅了するに余りある光景だった。 和田小屋からスキーのゲレンデを横切り、樹林の中の道を行く。 岩とぬかるみ、落ち葉の重なる道。橅や岳樺(ダケカンバ)の巨木が目を引く。 下の芝あたりからは落葉樹から米栂(コメツガ)の森に代わる。 中の芝、上の芝と登るに連れて視界が開け、汗ばんだ体に吹く風が心地良い。 上の芝へ向かう道。 上の芝から上越国境の山々を俯瞰。 ほどなく神楽ヶ峰にたどりつく。 ここからは今まで山に遮られていた苗場山と信州方面の山々も見渡すことが出来る。 苗場山、デカイ。 西方向の眺望。右奥は志賀高原の奥にある岩菅山か。 左のピラミダルな山は、何度か計画したがいまだに登頂を果たせずにいる鳥甲山(トリカブトヤマ)。 神楽ヶ峰から一度下って、いよいよ苗場山に向けて登りにかかる。 初心者にはちょっと怖いようなところもあるが、特に悪い場所ない。しかし頂上近くの最後の急登はキツかった。 振り返ると神楽ヶ峰がいつの間にか眼下に。その向こうは岩原のスキー場。はるかかなたの中ほどに見えるのは越後三山。 息遣いも荒く喘ぎながら歩を進めると、フッといきなり視界が開け頂上の一角に出る。 だだっ広い台地状の山頂部は木道が敷かれ、そこここに池搪(チトウ)が点在している。 山頂では風も弱く、思いのほか暖かだった。 ここにはひたすら緩やかな時間の流れがあり、太古の昔から連綿と受け継がれる自然が息づいている。 本当は山頂で一泊したかったのだが気ぜわしい都会人の性、30分ほど佇んだ後、後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にした。
by katabami03
| 2011-10-22 22:05
| 旅・山
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